生臭さん、狐に惚れられる。

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 * * * *  さて、狐と別れた僧侶は無事に村に到着することが出来ました。  都の華やかさを知っている僧には、その村はどこをどうとっても田舎でしたが、それは僧には嬉しいことでした。  僧は人間嫌いだったのです。  僧は念仏を唱えながら田んぼ道の端に立ちました。すると田畑を耕していた村の人達が集まってきて、口々に有難がりながら大根や人参、粟などを置いて行くのでした。  そうしてそれらを手土産に手近な家を訪ね、火と寝床を貸してもらう。そんなことを続けていたある日のこと。  ひどく乾いた夜。山火事が起こったのです。そして、燃えているのはあの狐がいる山でした。  僧は、生まれて初めて真剣に念仏を唱えました。本気で祈りました。けれども声を張り上げても、炎は笑うだけでした。
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