生臭さん、狐に惚れられる。

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 僧はしばらく祈ると、数珠を放り投げました。居ても立ってもいられなくなったのです。  元々、捨て子だった彼にとっては拾われたのが寺院だったというだけで、仏様に対する信仰心なんてものはなかったのでした。  また僧侶になったのも「坊主」という隠れ蓑が便利だから、くらいにしか思っていませんでしたから、数珠を投げ捨て駆け出すことに躊躇いはありません。  火の山と化したそこに踏み込むこともまた、同様でした。  周りの人々は止めました。気でも違ったかと思われるのも仕方のないことです。  なぜ自分が妖狐一匹にこんなにも必死になっているのか、僧侶には分かりませんでした。  少し前まで空気の澄んだ綺麗な場所だったそこが、まるで地獄のような有様になっているのを見ても尚、僧侶の足は止まりません。
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