生臭さん、狐に惚れられる。

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 山に足を踏み入れると、まさしくそこは地獄といった様相を呈していました。  あまりの熱に瞼を開いていることも難しく、喉が焼け付きそうになって息が苦しくなります。それでも僧はその熱を声に変えるように、普段上げない大声を張り上げました。 「狐ッ! 狐や、いませんか!」  焼けた木が倒れ、僧の行く手を阻みます。しかしここで立ち止まっていては、いずれ火の手が回り退路がなくなるだけ。僧は意を決して炎の中を走り抜けました。  どれくらいの時間が経ったでしょうか。無我夢中な僧にはそんなことはどうでも良いことでしたが、火に囲まれた状態と考えるとたとえ数分だとしてもそう短くはないでしょう。 「坊……主ッ、なぜ……」  僧は息も絶え絶えになった妖狐を見つけました。あんなに鋭かった眼からはぼんやりとした弱々しい光しか見えません。  妖狐はどうやら運良く倒木によって炎からは免れていたようですが、煙を吸い込んでいるようで声を出すのも辛そうでした。  僧はすぐに妖狐を抱き上げました。美しかった金の毛並みは煙と血に汚れ、焦げてくすんでいます。 「な、にをっ」  僧は答えている余裕は無いな、と僧衣の袖で妖狐の口元を覆いながら、炎を睨みつけたのでした。
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