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僧は走りました。
僧衣は焦げ、笠はぼろぼろになり、錫杖は何処かに置いてきてしまってありません。
それでも、僧は走りました。
息は苦しいですが、煙を吸い込まないためには大きく息もできません。
自分は何をしているのだろう、とぼんやり思いました。
今まで、人を騙すようにして生きていた僧。自分の為なら全てを陥れてもいいとさえ思っていたはずなのに、こんなまるで割に合わないことをしている自分を僧は笑いました。
思えば出会ったときからそうでした。いつもなら狐の一匹や二匹、退治されようがどうしようが気にもならなかったのに。
そして気付きました。僧は幼かったかつての自分と妖狐を重ね合わせていたことに。
ただ弱く、味方はいない。ただそこにいるだけで、謂われもなく敵視される。
見える全てが敵だった。毛を逆立てて威嚇しなければ生きていけないから。
それでも優しさを持ち続けていた狐。そんな清らかさに、美しさに、僧は憧れていたのでした。
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