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「殺さば殺せ。ただし追い詰められた獣がどうするか、 知らぬわけではなかろう」
妖狐は笑ってそう言い放ちました。腐っても妖狐。荒事を好まないとは言っても、自らの命を安々と差し出すほど腑抜けではないのです。
しかし返ってきた答えは意外なものでした。
「何を勘違いしているのです。私はあなたに道を聞きに来たのですよ」
「お主、坊主ではないのか?」
妖狐は驚いて言いました。姿形はただの狐ですけれども、相手は僧侶。魑魅魍魎の類が見破れないはずがないのです。
それに実際僧侶は妖狐、と彼女のことを呼びましたから、てっきり妖狐はこの僧侶が村人に頼まれて自分のことを成敗しに来たのだと思ったのでした。
「ただの化け狐一匹殺したところで何になるのです。お前が人を喰らったら、そのときは喜び勇んで退治してくれましょう」
けれども妖狐は警戒を緩めません。自分達より狡猾で残忍な人間は平気で嘘を吐くこともちゃあんと知っていたからです。
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