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「人の話を聞かない狐ですね。まあ、仕方のないことかもしれません。僧というのは妖と見ると退治しようとする人ばかりですから」
僧侶は妖怪を前にしているというのに、身構えようともしません。それどころか近くの岩に腰を下ろしてよっこらせと息を吐きました。
呆気に取られる妖狐。こんなことをする馬鹿な人間はただの野狐だったときにもいませんでした。
これはきっと何かの罠なのだ。この坊主の仲間が油断した隙を狙っているに違いない。僧のあまりにも不用心な姿にそう考えた妖狐は、いつでも牙を突きたてられるような態勢を取りました。
「それで、何の用と言ったかな人間。もう一度聞かせろ。嘘を吐くと碌な目に合わんぞ」
「仏に仕えるこの私が嘘偽りなど言うわけがないでしょう。狐や、それは無礼というものですよ」
「私の縄張りに無断で入ってきた人間に対して、これでも礼を尽くしている方だと思うがな」
これでは埒が明かない、と僧は言います。
「縄張りに勝手に入ったことは謝りましょう。しかし、私は本当に困っているのですよ。目を瞑って座っていますから、近くの村までの道しるべを付けて貰えませんか」
「そんなことを言って、私の寝ぐらの場所を暴く心づもりなのだろう。騙されぬぞ、狐が化かされるなどと馬鹿らしいことがあるものか」
その話は、小一時間続いたのでした。
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