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「ええい、話の分からぬ奴め! いいからここから立ち去れと言うのだ!」
「立ち去りたいのは山々ですよ。どちらへ行けば村があるのか教えて欲しいだけではないですか」
話は堂々巡りでした。人間を恐れ関わりたくない妖狐と、何とか人里に辿り着きたい僧。
「人間一人野垂れ死ぬくらい私には関係のないことよ」
「では何故私を喰らおうとしないのです」
「それは……」
妖狐は言い淀みました。争いが恐ろしいなどと言ってしまえば、この僧は自分を殺してしまうと思ったからです。
「お前が人に仇なす悪しきものではないことくらい分かるのですよ。お前は善狐なのでしょう」
善狐とは何なのだろうか。随分長い間生きてきた妖狐にも、聞きなじみのない言葉でした。
「妖狐は善狐と悪狐という二種類がいるのです。字面からわかるの思いますが、良い妖狐と悪しき妖狐です」
不思議そうにしていたのが伝わったのでしょうか、僧は手近の棒切れで地面に字を書き始めます。
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