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「座敷童なる妖怪がいるのを知っていますか?」
ううん、と僧侶は少し考えて稚児に例え話で説明するように言いました。
「ああ、古い屋敷に居つくという」
「あれは幸運をもたらす無害な妖怪なのですが、それを知らない貴族や坊主に退治されることが多いのです」
僧侶の目は、お前もそうなのだ、と告げていました。
「悪狐ならば、人間を騙す知恵はあれど、私の話を聞く耳などは持ちませんから。お前が私に襲い掛からなかったのは善狐であることの何よりのしるしです」
ですから、と続けようとする僧侶を遮って強い口調で妖狐は言いました。
「私が善良であろうとなかろうと、人間は妖であれば殺す。か弱き者が我に火の粉のかかる前に、と自らを守ることは仕方ない。それを咎めるつもりはない」
「…………」
「しかし私とて我が身が惜しくないわけじゃない。縄張りに入ったことは不問にしてやる。直ぐ様ここから出てゆけ」
「…………」
「そんなつもりでは、とでも言いたげだな。悪いが、こちらも同胞を殺されておるのだ。おいそれと信用できぬ」
それまで沈黙を貫いていた僧侶がばたりと倒れたのは、その時でした。
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