14人が本棚に入れています
本棚に追加
* * * *
僧侶は火の粉の爆ぜる音と、鼻をくすぐる良い匂いで目を覚ましました。
隣には見覚えのない少女がいて、自分を遠巻きに見守っています。
しかし僧侶にはそれが化けた妖狐であるとすぐにわかりました。
いえ、僧侶でなくともわかったことでしょう。妖力の少ない妖狐は人に化けることすら満足にできず、耳と尻尾を隠しきれていないからです。
「起きたか。行き倒れる坊主というのは聞いたことがないぞ」
「人間一人死んだところで知ったことではないのでは?」
まだはっきりとしない頭を振りながら、僧侶は尋ねました。
「お主、恩のある相手に対する言葉がそれか?」
呆れたように妖狐は言って、食べ物を僧侶に差し出しました。どうやらわざわざ人間が食べられるように調理までしてあるようです。
「あんなに関わるのを嫌がっていたのに、何故?」
「いや、本当に飢えておったなら、素直に教えてやれば良かったなと思ったからな」
「感謝します、有難いことだ」
優しい妖狐は、少し照れ臭そうにしていたのでした。
最初のコメントを投稿しよう!