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妖狐は毎日弱りきった僧侶に食べ物をたくさん届けてあげました。
彼の体調はみるみる内によくなり、ついに立ち上がり歩くこともできるようになりました。
そして、別れの言葉を口にします。
「この恩は忘れません。では」
僧侶は、狐が少し寂しそうな顔をしていることに気づかないふりをしました。
古くから人と関わった妖は皆、碌な目に合わないことを知っていたからです。
優しいこの狐に危害を及ぼしたくない。だからこそ僧侶もまた、狐に助けを求めたのは苦肉の策だったのでした。
「ああ、もう行き倒れたりするんじゃないぞ。それから、人里はあっちだ」
その寂しさを紛らわすような妖狐の曖昧な笑みに僧侶は、つきんと何かに小突かれたような痛みを感じて目を逸らしました。
この妖狐は永きに渡って一人で生きてきたのです。悪狐のようにただ本能のままに人を喰らっていれば、そんな気持ちにならなかったでしょう。
僧侶もまたこの弱い妖狐が悪狐だったらと思わずにいられませんでした。それほどに、妖狐は孤独だったのです。
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