Act.1 依頼人

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  人を待たせているだけにのんびりするわけにもいかず、湯船に入らずにシャワーだけで済ませた。 いつもより熱いお湯を浴びて風呂場から出ると、身体があたたかくなったからか余裕ができてきて、冷静な対応ができるようになっていた。 普段着である和服に身を包み、お茶を淹れてから、和室で待たせていた神主さんと向き合う形で座る。 「えーと… とりあえず、何故アナタが私の家に?」 「君に、頼みがあって来たんだ」 「…仕事の依頼ですか。 それなら、式鬼を飛ばして下されば良かったのに」 本来「祓い屋」という仕事は表に出てこない。 妖の被害に遭う者は、まず神社やその関係者に相談し、それらを通じて私たち祓い屋が呼ばれるからだ。 だから、依頼主とこうして顔を見合わせて話すのは本当に珍しいことだと言える。 ちなみに、「式鬼」というのは式神の事で、色んな形を象った式紙に自分の力の一部を送り込み、具現化させて使役する。 本当に便利で、無くてはならない能力だ。 「いや、これは直接会って話さなければならないんだ」 「そんなに大仕事なんですか?」 「…かなりね」 「……」 …なるほど。 私は煎れたばかりの熱いお茶を一口飲み、一息つくと、ゆっくり口を開いた。 「話して下さい」  
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