Act.2 語リ物

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  その昔、妖の王とも言える強い妖がいた。 最恐の鬼、酒呑童子。 美しき狐、白面金毛九尾の狐。 博識天狗、烏丸大天狗。 これらは妖の中でも最強の部類に属され、三大悪妖怪と言われている。 その力は人間だけではなく、仲間である妖からも恐れられる程であったという。 そして、今から五百年前。 三大妖怪はそれぞれ陰陽師に封印され、同じ土地に厳重な結界と共に封じられた。 己が命と引き換えに三大悪妖怪を封印した、その三人の陰陽師。 伝説の彼らは陰陽貴族として現代でも知られている、が…何故か一人の陰陽師についての詳細だけが残っていない。 そして今、あの時の結界はすでに弱まり、三妖怪の強大な妖気が洩れ出している。 洩れ出した強い妖気は、存在する妖たちをおびき寄せ、邪の土地となってしまった。 つまり、妖たちの巣が出来上がる。 語り終えた神主さんは、静かに目を閉じた。 私は、真剣に聞くうちに前のめりになっていた姿勢を正し、膝に手を置いて神主さんを見つめる。 「つまり、結界を張り直せば良いんですね?」 「いや…」 神主さんは眉を寄せ、緩く首を振った。 「そう簡単にはできないんだ。 今結界を張り直そうとしても、強い妖気に弾かれてしまう」 「じゃあどうすれば……」 「ひとときだけ、その妖気が完全に消える瞬間があるんだ」 「いつです?」 神主さんは、言いにくそうに眉を顰める。 纏う空気が、明らかに良くない情報なのだということを示しているようで、私は緊張から口の中の唾を飲み込んだ。 熱かったはずの手元のお茶は、すっかり冷めてしまっていた。 「――完全に、封印が解ける時だよ」  
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