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「お嬢ちゃん、名前は」
「ひっく、…ぇぐ……っゆ、結季…」
「いい子だ、ゆうき。…だからもう泣くな」
「ぅっ……だっ、て…お、母さん…お…父、さんがぁ…ひっ、く……」
――雪の降る、とてもとても寒い日だった。
真っ白な空へ上る黒煙。
原形を残さないほど黒焦げになった建物。
不気味に動く、人のものではない肉片。
泣きじゃくる幼女と、その幼女をあやす青年以外に、人は居ない。彼女の傍らには、――血塗れになった男女が横たわっていた。
「結季。ゆっくりでいいから…ここで、何があったのか、話してくれるか…?」
「っく……お空からね、おっきいモノがたくさん、…きて、わたしのおうちをね…も、燃やしちゃって…」
「……それで?」
「おかあ、さんと…おと、さんが、わたしをかばって……でっかい…、モノに……ぅ、…おかあさ…とぉさ…ん……」
「…分かった、もういい、結季。
好きなだけ泣け。…俺が、居るから」
「……っうわぁぁあぁあぁああん!!」
幼女は腕を広げた青年の胸へ飛び込み、声を上げて泣いた。
彼女を優しくも力強く抱きしめる青年の目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「……立派なご両親を持ったな。結季…」
幼女の悲痛な声は、黒煙が覆い尽くす灰色の空へいつまでも響き渡った。
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