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薄い黒地に緋色…いや桜色で花片が散りばめられた綺麗な着物を着て、風に腰くらいまである長い黒髪を静かになびかせながら桜を見上げるようにして、そこに「居た」。
「……ねぇ」
思わず声を掛けた。
まるで、少女がこの「桜」の様で。
「………………」
呼び掛けたが、少女は気づいたいないのか振り向きもしない。
「……ねぇってば!」
「!え………?」
少し近づいて、強めに呼んでみる。
気づいていなかったらしく、案の定少女はびっくりした様に少し声を上げて振り向いた。
「……私の、事?」
少女は何故かものすごく驚いた表情で聞いてきた。
まるで、自分が「見えているのが不思議そう」に-
「うん、そうだよ。こんな所で何してるの?」
隣に立ちながら問い掛ける。
少し戸惑いながら、少女は僕を見る。
「……どうして?」
「…?…だって、ここの桜の木を僕以外の人で誰かが見てるの初めて見たから……町外れだし……」
すると少女は、軽く桜を見上げながら。
「……この桜はね……」
少女は、呟く。
「……この桜は『 』」
-ざあっ
「……え?…!?っぅわっ!」
瞬間、ものすごい突風が吹き、道に散っていた花びらを巻き上げ、少女を隠した。
思わず顔を手で覆ってしまい、少女の声は掻き消されてしまった。
「……っつ、ねぇ!今な、ん……て……」
目を開けたらもうそこには少女の姿はなかった。
「……あれ?あの子何処に……」
見回したが、桜の周りには僕以外誰もいなかった。
まるで、初めてから誰も……少女がいなかったかのように。
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