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プロローグ
せっかちな蝉が自身の誕生をジジッと告げ飛び立った。
月はまだ地平線より高い席に陣取り、世のまどろみが解けぬ様、静かな眼差しを注いでいる。
白猫は耳を前後にぴくつかせ立ち上がった。
微かな風の香りを鼻孔一杯に吸い込む。
懐かしい香りだ。
記憶の糸を脳が素早く辿り始めるが、
はて、なんであったのか…。
懐かしさの理由が今一つはっきりしない。
老いかけた自分に多少の不満を感じるが、
なに、歩いてみれば思い出すさ。
優しく波打つカーテンの向こうへ、
白猫は飛び立った。
背後には残される少年1人。
だが
人の事など
猫の知った話ではない。
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