1515人が本棚に入れています
本棚に追加
あぐりはそんな人々を横目で見て、
(ふん、もう何日も体を洗ってないからな。ざまぁみろ)
と、内心で悪態を吐いた。
幸せそうだった奴らの笑顔が、自分の臭気に歪むのが嬉しい。楽しい。
しまいには自分から、人にすり寄ってその顔を見ようとする。
大人はそんなあぐりを虫けらのようにしっ、しっ、と追い払い、目を逸らす。
暫くそんな遊びを楽しんでいたあぐりだったが、急に思い出したように路肩にふらふら歩き、へたり込んだ。
「……腹、減ったよぉ」
遠吠えのように唸る。
何日も何も食べていない事に気付く。
最後に食べたのは――仏に供えられた泥饅頭だったか。
もう限界に近かった。
目の前には裕福そうな人々が沢山いるが、物乞いをする気は毛頭無い。
ならばする事は一つ。
静かに立ち上がり、その眼を獣のように光らせ、市場の品物を物色する。
そして――決めた。
目の前の店の、一番手前に置かれた魚の干物。
店主は小太りの婆で、きっと足は遅い。
――――ちょろい。
最初のコメントを投稿しよう!