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まるで、それでも構わないと言っているように、阿仁には見えた。
だが実際のあぐりの思いはそれと違っていた。
「ううん、阿仁。斉雅は、もう力の使い方を知ってる。ちゃんと話せば、わかってくれるよ」
あぐりには、そんな結末にはならない、という確信があった。
斉雅の本当の姿を、知っているから。
「斉雅は、私に誠意を示してくれた。私もそれを返したい」
“阿里”があぐりだと知れてからは、一度だって無体を働かれたことはない。
償いの為、自分の命すら惜しまなかった。
そんな斉雅を知るからこそ。
「お願い。絶対また戻って来るから。
……そうしたら今度は、小判鮫みたいに阿仁に張り付いて、嫌がったって離れないから、ね」
なんて、笑いながら言うあぐり。
だが目だけは、頑なに「行く」と言って揺らがない。
そんなあぐりの表情を、阿仁はじっと見つめ、黙り込んでしまった。
「阿仁?」
困惑気味に、阿仁の顔を覗き込む。
だが次の瞬間、腰を強く引かれて、あぐりは阿仁の側によろめく。
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