第二十九章:「かなし」

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まるで、それでも構わないと言っているように、阿仁には見えた。  だが実際のあぐりの思いはそれと違っていた。 「ううん、阿仁。斉雅は、もう力の使い方を知ってる。ちゃんと話せば、わかってくれるよ」 あぐりには、そんな結末にはならない、という確信があった。 斉雅の本当の姿を、知っているから。 「斉雅は、私に誠意を示してくれた。私もそれを返したい」 “阿里”があぐりだと知れてからは、一度だって無体を働かれたことはない。 償いの為、自分の命すら惜しまなかった。 そんな斉雅を知るからこそ。 「お願い。絶対また戻って来るから。 ……そうしたら今度は、小判鮫みたいに阿仁に張り付いて、嫌がったって離れないから、ね」 なんて、笑いながら言うあぐり。 だが目だけは、頑なに「行く」と言って揺らがない。 そんなあぐりの表情を、阿仁はじっと見つめ、黙り込んでしまった。 「阿仁?」 困惑気味に、阿仁の顔を覗き込む。 だが次の瞬間、腰を強く引かれて、あぐりは阿仁の側によろめく。  
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