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それは昔、猫に干物を分け与えた時の、「生きたい」と言った時の、強い願いのこもった眼差し。
出会った頃から阿仁が惹かれてやまない、嘘や裏を持たない“あぐり”の眼差しだったから。
自分の嫉妬で、その真っ直ぐな目を汚したくない、と思ってしまった。
あぐりは本当に戻ってくるだろう、と信じ始めてしまったのだ。
ただ、そう認めても、内心では自分だけが恋い焦がれているような気がして悔しくて、困らせてやろうと、つい口付けた。
結局、その赤面を見てしまえば余計行かせたくなくなって、止せば良かったと後悔したのだが。
――この俺を翻弄しやがって。生意気なんだよ、あぐりの癖に。
今だって、内心ではそう思っているのに、
「いい、の?」
不安げに覗き込むあぐりの下がった眉尻を見れば、口は裏腹に言葉を紡ぐ。
「死んだ男を待ち続けたお前に比べれば、生きてる相手を待つなんざ、楽なもんだ」
嫉妬も本心なら、この言葉も間違いなく本心で。
阿仁は諦めたように、笑って肩を竦めてみせた。
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