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日が昇って、まだ間もない都の往来――。
そこは既に人で溢れ、活気付いていた。
「朝とれ野菜だよう!」
「直送の魚の塩漬けだよ!」
などと商人の掛け声が響く。
皆、その声をかわしながら目当ての物を物色している。
路肩を犬と追いかけっこをして走り回る七、八才の子供達。
それらを見ながら、人混みに紛れるように、あえて道央を歩く子供がいた。
名は、あぐり。
ぼろぼろの衣を纏い、ぼさぼさの髪を草で結んでいる。
顔は泥なんだが垢なんだかわからないくらい汚れて、素顔すらわからない。
ただそこから覗く瞳だけは、宝玉のように輝いている。
走り回る子供達と同年代だろうに、その佇まいは迫力があり、まるで何年も世間の荒波を乗り越えてきたかのような貫禄があった。
だがそんな秘めたる何かなど、周りの大人には関係ない。
ただよくありがちな小汚い孤児の姿に顔を歪めて、よけて通る。
おかげであぐりはまるでお大尽のように道央を闊歩できた。
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