第一章:「少年」

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あぐりはそんな人々を横目で見て、 (ふん、もう何日も体を洗ってないからな。ざまぁみろ) と、内心で悪態を吐いた。 幸せそうだった奴らの笑顔が、自分の臭気に歪むのが嬉しい。楽しい。 しまいには自分から、人にすり寄ってその顔を見ようとする。 大人はそんなあぐりを虫けらのようにしっ、しっ、と追い払い、目を逸らす。 暫くそんな遊びを楽しんでいたあぐりだったが、急に思い出したように路肩にふらふら歩き、へたり込んだ。 「……腹、減ったよぉ」 遠吠えのように唸る。 何日も何も食べていない事に気付く。 最後に食べたのは――仏に供えられた泥饅頭だったか。 もう限界に近かった。 目の前には裕福そうな人々が沢山いるが、物乞いをする気は毛頭無い。 ならばする事は一つ。 静かに立ち上がり、その眼を獣のように光らせ、市場の品物を物色する。 そして――決めた。 目の前の店の、一番手前に置かれた魚の干物。 店主は小太りの婆で、きっと足は遅い。 ――――ちょろい。  
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