1515人が本棚に入れています
本棚に追加
そこまで分析してからは早かった。
ふらふらと道を歩き、偶然を装ってその店の軒先で躓いて見せ、倒れ込む。
嫌そうな顔をする婆にぺこりと頭を下げ、へらへら笑いながら立ち上がり、素早く立ち去る。
懐に、干物を蓄えて。
「へへっ、ざまぁ! ざまぁ!」
久し振りの食い物に、嬉しそうに顔を火照らせ、街の外れの川べりまで走り抜けた。
辺りを見回し、追いかけられていない事を確信してから、橋の下に潜り込んだ。
懐を弄り、愛しの食い物と漸くのご対面を果たす。あまりの嬉しさに鼻をこすりつけ、それを確かめる。
「あぁ……塩の匂いだ。泥じゃない、食いもんだ」
涙すら浮かべて喜ぶ、あぐりの心に罪悪感などない。
ただ生きる。
それだけがあぐりの原動力だった。
意を決して、その尻尾にかじりつく。
「う、めぇ~……うめえよう」
あぐりは生を実感して、泣きながらただの干物を味わった。
だがその感動は、甲高い声に遮られた。
「にゃー、にゃー」
最初のコメントを投稿しよう!