第一章:「少年」

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道端の地蔵のそばから、可愛らしい声がする。 あぐりには救済を求めるような、嘆きの叫びに聞こえた。 「見ねぇ。……見ねぇぞ。……強い奴が生きる。弱いのは死ぬ。それだけだ。それだけ、それだけ……」 干物を握り締めて、呪文のように世の理を呟き続ける。 「にゃー、にゃー」 「うめえ、うめえ」 「にゃー……ん」 「……」 さっきより弱くなった声に、あぐりは――見てしまった。 元は真白だったはずの、薄汚れた子猫が、無垢な目をあぐりに向けているのを。 自身のキツい臭いのせいで気付かなかったが、そばには死臭を放つぼろぼろの亡骸が落ちている。多分、母猫であろう。 「……おかあが死んだのか」 あぐりはもう目を離せなかった。 「おいらと一緒か……」 諦めの溜め息を吐く。 一度、干物を見つめ、唾を飲み。 「ほらよ」 それを半分、子猫に与えた。 半身ずつ食べて、二日は保たせようと思っていたのに。  
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