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道端の地蔵のそばから、可愛らしい声がする。
あぐりには救済を求めるような、嘆きの叫びに聞こえた。
「見ねぇ。……見ねぇぞ。……強い奴が生きる。弱いのは死ぬ。それだけだ。それだけ、それだけ……」
干物を握り締めて、呪文のように世の理を呟き続ける。
「にゃー、にゃー」
「うめえ、うめえ」
「にゃー……ん」
「……」
さっきより弱くなった声に、あぐりは――見てしまった。
元は真白だったはずの、薄汚れた子猫が、無垢な目をあぐりに向けているのを。
自身のキツい臭いのせいで気付かなかったが、そばには死臭を放つぼろぼろの亡骸が落ちている。多分、母猫であろう。
「……おかあが死んだのか」
あぐりはもう目を離せなかった。
「おいらと一緒か……」
諦めの溜め息を吐く。
一度、干物を見つめ、唾を飲み。
「ほらよ」
それを半分、子猫に与えた。
半身ずつ食べて、二日は保たせようと思っていたのに。
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