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だがそんな後悔は、嬉しそうに「うみゃ、うみゃ」とがっつく子猫を見ていれば跡形も無く消えていた。
「うみゃいかぁ? 良く噛めよ」
微笑んで、その姿を見ながら、残った半身を味わった。
「へぇ。ちょろまかした食いもんを畜生にやるなんて、馬鹿もいたもんだな」
食べ終え、すっかり懐いてごろごろと喉を鳴らす子猫と寝転がって昼寝をしようとした時にそんな事を頭上から言われ、あぐりはびくりと体を起こした。
それに驚いて、猫はどこかに逃げてしまった。
あぐりの目の前には、読めない笑みをした青年が立っている。
まだ若く、十八くらいに見える。長い髪の一つ髷も、着物の着こなしも雑なのにどこか品があるのは、着物の布が上質だからというだけではないだろう。
佇まいに、やけに雰囲気のある男だった。
が、あぐりはそれどころではない。
犯行を見られていたのだから。
逃げ道を探して辺りを見回す。
だが下手に橋の下なんぞに潜んだのが間違いだった。前は川、後ろは土手。逃げ場が無い。
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