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男はそんなあぐりの思考を読むように、先回りしてあぐりの手を掴み、日の下に引っ張り出した。
「まあまあ。取って食いやしねぇよ。干物一枚で役人働かせるのも気の毒だしなぁ」
「離せ!」
ぶんぶんと手を振るが、あぐりに大人の腕を払う力がある訳も無く。
「うわっ、お前、くせぇなあ!」
そんな率直な意見に、あぐりは馬鹿にされた気がして、激高してまた暴れた。
金持ちっぽい男に、子猫に施しをしている孤児の自分はさぞや滑稽に見えただろうと。
「うるせえ! 上物着たお前に何がわかんだよ! 育ちの良い面しやがって!」
男が面白そうに笑っているのすら嘲られているようで、我慢がならなかった。
だが男は本当に他意はなかったらしく、
「すまんすまん」
と素直に頭を掻いた。が、手は離さない。
何がしたいのだとあぐりは一瞬抵抗を止め、頭三つ分も高い男の顔を見上げた。
男はまだ笑っていた。
が、それが思いのほか優しい笑みで、あぐりは思わず目を逸らした。
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