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「………――――で、明日から島原に潜伏しますさかい、用意しといて下さい」
「分かりました」
「りょーかい」
「あ、沖田はんはちょっと待ちや」
「……あ?」
襖に掛けていた手を、離す。
すると、後ろで待っていた平助が逃げるようにそさくさと出て行った。
「……あ」
平助を捕まえようと伸ばした手が空を切って、俺は思わず声を零した。
……あいつの、平助の様子がおかしい。
「沖田はん。 これは新撰組(ここ)でも言える事なんやけど、明日から潜伏する島原には長州がようけ通っとる。 惚れたらあかんで?」
「分かってる。 分かってるが、それを間近で見てるのは辛えな」
「……藤堂はんか」
「しかいねえだろ……」
ひどく胸が痛んできて、着物を握りしめながら前髪をグシャリと掻き上げた。
「確かに心配は心配やなあ。 ま、俺は沖田はんの事の方が心配やけど」
「お前に色恋を心配させる筋合いはねえよ」
「それもそうやね」
丞のその言葉を最後に、俺は部屋から出て町へと繰り出した。
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