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以上の経緯を経て冒頭に至る。
覗いたらそこには雑巾を牛乳を浸しているクラスメイト──もとい竹森さんがいたわけだ。
もう一度竹森さんを見る。
雑巾をバケツに浸す。
バケツの上で雑巾を搾る。
雑巾から牛乳(と思しき)白い液体が流れ落ちる。
雑巾をバケツに浸す。
バケツの上で雑巾を搾る。
雑巾から牛乳(と思しき)白い液体が流れ落ちる。
ポニーテールが揺れスカートが翻る。
竹森さんの体が完全にこちらを向く。
わずかに釣り上がった眼が見開かれ、薄い唇が開か──
「そこでなにをしているの!」
マズイ!見つかった!それ僕が言おうと思ったセリフ!
……待てよ?元々怒鳴りつけてやる予定だったしその前から教室には用があったんだから逃げる必要はないよな?
頭の冷静な部分からの意見に、僕はクラウチングスタートの構えを解く。
しかし教室で雑巾を教室に浸している奴とは関わるな、っていうじっちゃんの非情にピンポイントな遺言を守らない訳には行かないし、でもまだじっちゃんはまだ生きてる訳でそうするとつまり……。
馬鹿な事を考えているうちにこちらに歩み寄ってきた竹森さんが教室の扉を開けた。
「見られたからにはタダで帰すわけには……って三田君!?」
勢いよく怒鳴り込んできた竹森さんだがクラスメイトと分かり戸惑っているようだ。
このままじゃタダで帰してくれないらしいので言い訳を試みる。
「や、やぁ竹森さん。奇遇だね僕は鞄を取りに来ただけで特に何も見てないんだけど竹森さんは今日もキレイだね」
我ながら白々しすぎる。それでも竹森さんは「見られていない」と判断したらしく、表情が緩んだ。
「そうなんだ、あはは。てっきり私がバケツ一杯の牛乳に雑巾を浸していたのがバレたのかと……あ」
あ、じゃねぇ!!自分からバラしてどうすんだ!!仕方ない。ここは僕がフォローを入れるしか──
「聞こえない聞こえない!何も見てない!モップを持ってトイレから出てくる所も見てない!!……あ」
終わった。完全に終わった。どうして僕はこうも機転が利かないのだろうか。それは竹森さんにも言えそうだが。
ああ、やられる。これはやられる。きっとこのボロ雑巾のようにボコボコにされて牛乳の中で溺死させられるのだろう。
数瞬の沈黙の後、彼女はつぶやく。
「……ねぇ、三田君。この町が、好き?」
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