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絞り出した声が震えていた。
店ではどんな男であろうとしなやかに接客する凛花が、この、ただ一人の男に声をかけるだけで心臓が縮み上がる程に緊張していた。
背を向けていた龍吾が振り向いた。
「あ、」
凛花。
声は出ていなかったが口の動きがあった。
思いがけず掛けられた声の主に、少なからず驚きの色が隠せないようだった。
「あの、この間は、ありがとうございます」
「いや、別に。俺は落ちていたのを拾っただけだから」
龍吾の少しはにかむような笑顔は、まだ少年のようなあどけなさを覗かせ、凛花の胸を締め付けた。
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