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長い、鳶色の髪をしている女だった。彼女は外套に加え、首には風避けの布を巻いている。
女の丸い青の瞳は、少女を捕らえて離さなかった。
少女が何故、と問い掛けるよりも先に、女は手を伸ばした。
少女は咄嗟に身体を縮混ませ、その細い腕で頭を抱えた。
というのも、少女は大人から伸びる手は子売りの汚い手か、殴る嫌らしい手だと知っていたからである。
しかし、女は少女の予測に反した。
自分の風避けを取ると少女の細い首に巻き付け、脇を掴む様に抱き上げた。
少女は驚き、声も発せない。
目を丸くしたままの少女を、自分の外套ごと中に包み込み、冷えた身体を温めた。
女が真上から覗き込めば、少女の額には痛々しい傷があるのが分かる。
「大丈夫…私も同じだから…」
女はそう言って額を撫で涙を流した。
それは少女の肩に落ち、染みを作る。
少女はその赤い、澄んだ目で女を見詰め続けた。
この時少女は物心付いて初めて人の優しさに触れた。
少女は自分以外の他人からも涙が流れる事を知ったのである。
「あなた、名前は?」
少女は首を横に振った。
「無いのね…じゃあ…私があげる。
今、夜更けだから…"更夜(こうや)"
夜の闇のように全てを包み受け入れる、誰にでも優しい子になるように…」
ーこうやー
漢字さえ分からないものの、少女はその
時、自分でも疑う程、すんなりとその名を受け入れた。
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