296人が本棚に入れています
本棚に追加
「師匠、また身長伸びました!」
木で作られた平屋の建物が雪の世界にポツンと建っている。
その扉から出てきた少女の澄んだ声が、雪の世界に響いた。
師匠、と呼ばれた男は肩まで伸びたワインレッドの髪を棚引かせ、振り向いた。
少女は手に持った紙を彼に渡すと、彼は一通り目を通し溜息を吐いた。
「お前、女なのに…168cmは大きいだろ…」
「はい!凄いでしょ!」
誇らしげに少女は胸を張る。
そんな彼女にまた彼は溜息を吐き、頭を撫でた。
「分かったから、行くぞ。更夜」
「はい、師匠」
少女は笑った。
息衝く度に、彼女の口からは白い息が漏れた。
少女ー更夜はこの冬の日、15歳となった。
更夜達の住む魔界では誕生日になると健康診断を受ける事が習わしとなっている。
成長期と言えど、この少女の成長は凄まじいもので、三年前に魔界入りをした頃に比べ、30cmは背が伸びていた。
更夜が異変に気付いたのは、歩いてすぐだった。
師は普段歩かない場所に進んでいる。
「師匠、次は何処に行くんですか?」
「………」
「師匠?」
彼は全く答えなかった。
身長の高い更夜でも、師の表情を伺うには顔を高く上げるしか無かった。
それでも口は閉じたまま何も言わない。
仕方なく、更夜は無言で着いて行くしかなかった。
息だけが白く、更夜の視界にちらついた。
最初のコメントを投稿しよう!