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満開の桜の花びらがひらひらと宙を舞い、そっと地面に落ちる。冬を越えて積もっていた雪も溶け、植物達が顔を出していた。
何より陽気が非常に心地好い。
――春。
四季が一巡りし、今年初めての春が訪れた。青く澄みきった空の下では、期待に胸を膨らませて学校に向かう子供達の姿。
赤、青、黄、桃…カラフルなランドセルを背負う小さな子供達は、集団登校で列を成していた。新入生達が先頭に立つ上級生の後ろについていく光景は実に微笑ましい。
「……可愛いものね、子供というのは。」
それを見ていた少女は血色の悪い唇を緩め、口元に微笑を浮かべた。風で艶やかな藍色の長い髪が靡き、少女は軽く髪を押さえた。
「―――」
風の音に掻き消される少女の呟き。やがて、少女は小さく笑い踵を返した。
***
棚や机、椅子といった家具が置かれている為か、元々はそこそこの広さなのだろうが、あまり広く感じられない個室。壁に掛けられたシンプルな円形の掛け時計の針が指す時刻は、既に午後を廻っていた。
「20、21、22……」
その部屋の中央に置かれた長方形の机、手前には丸椅子に腰掛ける少女の姿があった。細かい秒数を知らせてくれる秒針を目で追い掛け、数字を口に出して数えていく少女の顔は真剣そのもの。
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