[01.春の訪れ、終焉の幕開け]

3/3

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
秒針はゆっくりと細かな時間を刻み真上へ向かって少しずつ上っていく。もう少しで一分が経つ、そう思うと焦ってしまいそうだが此処はその衝動をぐっと堪え、秒針を見守る。 「57、58、59……60!」 待ちに待ったこの瞬間。張り詰めていた緊張感を解いた少女の顔は歓喜に満ちた。時計から机上に置かれた食欲をそそる香りを充満させるその容器に手を添え、若干湿ってしまった雑誌を退け、ペリッと紙の蓋を剥がした。その際に軽く蓋の裏に付着していた水滴が飛び散るも、少女はそんな事気にしない。 その容器の手前に置いてあった割り箸をパキッ、と二本に折った所で少女は目の前の容器に向かって合掌した。 「いただきますッ!」 少女は食事の際に用いるその言葉の後、容器…もとい、カップヌードルを手に持ち、ズルズルと音をたてて中身を啜った。 「んー…!やっぱり、カップヌードルは醤油に限るわね。シーフードやカレーなんて邪道よ邪道!カップヌードルは王道の醤油こそがナンバーワンなのよ!醤油最高!醤油はカップヌードルの王様ね!もっと評価されるべきだわ。」 カップヌードル[醤油味]と書かれた容器を軽く持ち上げ、称賛する少女の様子からとてもご満悦のようだ。 「…食べながら喋るな。行儀が悪いぞ。」 上機嫌にカップヌードルを称賛する少女を咎めるは、何処か冷たいオーラを放つ、金髪碧眼の美少年、と形容しても間違いでは無いだろう、男子用の制服を身に纏う少女。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加