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……やっぱりか。
ゆっくりと眼鏡を外し、彼は言った。
口元だけが少し歪み、ひきつった笑みを演出している。
君も、かけてみるかい?
彼は私に、眼鏡を差し出した。
受け取り、ゆっくりとかけようとする。
でも私には、かける前から、彼の言いたいことが何なのか、全てわかっていた。
眼鏡を、かけた。
……ふふふふ。
私は、笑ってしまった。
私の目の前に広がっていたのは、まるで写真のネガのような世界だった。
ただの建物からは白い光。
そして、人々からは黒い光が出ていた。
まぁ人間って、いくらこの町にいるからって、天使みたいにはなれないんだな。
彼は言った。
私は何も言わなかった。
私には、何も言う権利がなかった。
だって、私は人間だから。
そして、彼も人間なのだ。
改めて、人間の怖さを知った。
でも改めて、人間って良いなと思った。
ある、平和な町でのお話。
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