第一章「ヒツゼン」

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私がそこについた時、「それ」の周りには既に多くの生徒が集まっていた。 そう、阿形優斗の死体の周りに。 死体の側では坂本先生が懸命に蘇生活動を行っていた。 だが、首にロープを巻いたままだ。 何をしたところでもはや無意味だろう。 その様子を見つめる生徒達の大半は好奇の目でそれを見ている。 携帯カメラで撮影を始める輩までいるしまつだ。 群衆をよく見ると怯えたような表情の里香の姿があった。 そうか、さっきの悲鳴は里香のものか。 「先生、首にロープを巻いたままですよ」 私は死体に近づき、首に巻かれた白いロープをほどいた。 坂本先生は驚いたように私を見つめた。 巻かれていたロープをほどき忘れた事に驚いているのではなく、私に驚いているようだった。 私はその時初めて気付いた。 自分が、笑っていることに。
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