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ふと少年の首が動く。
その翡翠のような目は突然現れた少女に注がれた。
私はハッと我に返った。
「あなた、ぼーっと空なんて見上げてどうしたの?家出でもした?」
唐突に口が動いた。
なぜ話しかけたのか自分でも分からなかった。
でも、何故だろう。
この少年に話しかける事で自分の日常が変化するような、そんな気がした。
「違うよ」
少年は振り返って笑顔でそれに答えた。
「違うよ。僕は予言をしていたんだ」
「予言…?」
いきなり少年の口から出た非現実的な言葉に私は驚いたが、くだらないだとか頭がおかしいとかという考えは全く浮かばなかった。
麻衣から見た少年は、それほど神秘的で幻のような存在だったから。
「君が伊藤麻衣さんだね。やっぱり、宇宙の予言通りだ」
「宇宙?予言?あなたは何の話をしているの?」
「このセカイの話だよ。僕は宇宙と交信してこの街で起こる出来事を予言しているんだ。だから麻衣さん、今日君が来ることだって僕は既に知っていたんだ」
ペラペラとしゃべりはじめた少年はそう言いながら無邪気に笑った。
「そんなことあるわけないでしょ」
私はそれを一蹴した。
くだらないとは思わないが到底信じられない。それに自分の名前を知っている理由はストーカーだからかもしれない。
その美貌故に何度かストーカーのお世話になった麻衣はすぐにそう考えた。
「あなた、まさかストーカー?もしそうなら警察を呼ぶわよ?」
言われた瞬間少年は凍りついたように唖然とし、すぐに首をふって…
「ち、ちがうよ。僕はストーカーじゃないよ。本当に予言で麻衣さんを知ったんだよ」
あわてて弁明を始めた。
考えてみれば、自ら接触して相手の本名を告げるようなストーカーがいるわけない。
それは、自分がストーカーだと自ら言うようなものだ。
その慌てっぷりにクスリと笑ってから私は言った。
「冗談よ。でもだったら明日私に何が起こるのか予言してみせて?そうしなきゃ信じることなんてできないよ」
少年は偉そうに胸を張って
「うん、いいよ。でもこれで予言が当たったら君は信じてくれるよね?」
と自信満々に応えた。
「ええ、信じるわ」
本当に予言なんてあるわけないのに。
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