2 日常パラノイア

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 水城緋雨が桂燈なずなの眠る姿を見守っている丁度その頃、起源開発都市に複数存在する緊急搬送受け入れ可能な病院の一つに一人の少年が運び込まれた。  その男は不思議なことに腹部には深く切り裂かれたような傷があるにも関わらず血を一切流していなかった。彼を担当した医者はおそらく何かの能力で止血しているであろうと判断し、迅速に手術の準備を始める。  その傷も既に塞がりつつあり、医者としては近いうちに実験をしてみたいなどと考えていた。  唯一つ医者の判断不足があったとしたら、それは間違いなくこの少年のことをただの能力者の一人だと判断したことだろう。 「おい、医者……とっとと輸血しろ。血が足りねぇんだよ」  何かに餓えている獣を髣髴させる瞳で睨みつけられた医者は、眼を合わせた瞬間に自分の意思とは関係無しに少年に言われた通りの行動に取り掛かる。    この少年―――前ノ蔵(まえのぐら)眷属(けんぞく)の起源は『支配』というものだった。  もっと簡単に言えばカリスマという言葉がピッタリだろう。自分と対等、もしくはそれ以下の有機物や無機物、あまつさえ意味に対する絶対的な支配能力。それが前ノ蔵眷属の覚醒させた起源『支配』がもたらした能力である。  それはつまり、他者の起源能力すらも支配することが出来るという規格外の力。それゆえに前ノ蔵眷属は誰よりも最強という言葉にこだわった。  だから彼はオリジンブラッドと呼ばれる、この起源開発都市で恐れられている起源覚醒者に勝利し最強にまた一歩近づこうと試みた。  しかし、結果はこの様である。 「俺はいつから勘違いしてたんだか」  井の中の蛙大海知らず。  己が魂に刻まれた起源は誰よりも優れていると確信し、この起源開発都市に来てからと言うものも常勝だった彼はその言葉の意味を身をもって痛感した。
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