2 日常パラノイア

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 今まで常勝だったのは己の世界が狭かっただけだから。  だが、その代わりに手に入ったものもある。それは、己の浅はかさと無知。  それを知ることによってヒトはより強くなることができる。  ―――俺が最強だ!!  そう誤解するようになった自分に対する戒めなのだろう。 「でも、ようやく思い出してきたぜ……」  己の能力に溺れていた彼はもう居ない。ここにいるのは初心を思い出すことの出来た眷族という少年だけだ。  日常的に己こそが最強だと奢っていたパラノイアを彼が抱くことはもう無いだろう。 「俺は一からやり直すんだ。弱者を踏みにじる強者を俺は捻じ伏せる―――それが俺の目標だからな」  輸血されたことにより徐々に血色の戻りつつある身体を医療室のベッドから起こし、近くに揃えて並べられていた黒をメインにした赤いラインの入ったスニーカーを履く。  そして、もう必要ないと判断したのか腕に刺さっていた注射針のようなものを引き抜き医務室を出て行く。  その足取りは決して軽いものではなかったが、確かに一歩一歩を踏みしめて歩いている。
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