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そんな時、彼の傷口を狙ってわざと体当たりをかまして来たのではないかと勘違いするほど見事に傷口に突撃してきた何かが居た。
「ッ!?」
その体当たりから来た衝撃で塞がりつつあった傷口は僅かに開き、彼の着ている上着の腹部に血が滲む。
「イタタタタ……もう、ちゃんと前を見て歩かないと怪我するぞ♪」
「あのなぁ……俺は前を見て歩いていたし、そもそも病院の廊下を走ってる時点でテメェに一方的に問題があるに決まってんだろうが! てか、怪我するぞじゃねぇんだよ! 進行形で怪我してんだよ女ァッ!」
その女性の言い草に、彼は我を忘れて怒鳴りつける。だが、女性の何かに怯えるような表情を見て落ち着きを取り戻したようだ。
「女、お前……何をそんなに焦ってやがる?」
「え、ううん。なんでもないよ、なんでもないから!」
あからさまな誤魔化し方に彼は額に手を当ててため息を吐く。
(チッ……今日は本当に厄日だな)
「じゃあ、俺はこのままお前を見捨ててあの三人組を素通りしても構わねぇよな?」
彼が廊下の先を指差すと、女性は急に慌てふためいたかと思うと涙を浮かべながら彼に懇願してきた。
「え―――ちょ、助けて! ゴメン、助けてください!!」
本当に焦っているのだろう。丁寧口調と素が混じっているのか分からないが口調がめちゃくちゃだ。
(まあ、たまにはいいか……)
「女ァッ! その先にある医務室に走れ」
「あ、うん!!」
血が滲む箇所を労わる様に撫でながら彼は先ほど指差した三人組のほうをみてから後ろをちらりと眺める。
既に女性は大分後ろの廊下を走っていた。
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