プロローグ

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とある青年の話をしよう。  誰からも認められることが無く、誰かに認められようと血反吐を吐く思いで努力をしてきた青年の物語を。  その青年の望みは切ないものであった。  誰かに認められたい、自分を馬鹿にしてきた者たちに自分の有能さを知ってもらいたい、と、そう願って歩き続けてきた。  誰しもが一度はその苦痛を知り、その境地を乗り越え、手にする事のできるような小さな理想。  だからこそ青年は諦めると言うことだけはしなかった。  諦めると言うことは、自分の今までしてきたことを無に帰す行為だと知っていたから。  例えそれが誰かの犠牲の上に成り立つ望みであったと悟り………  自分の望みを叶えると言う事がどれほどの死を生み出すかと言うことを理解したとしても………  一度は絶望こそしたが、彼は己の中に眠る起源を覚醒させることに成功させる。  彼の起源は『血(ブラッド)』と言う五大属性に当てはまらない特別なものであった。  起源を覚醒させた彼はとにかく喜んだ。だがしかし、それと同時に喜び以上の絶望を再び味わうこととなった。  何故なら彼の起源である『血(ブラッド)』を使用するたびに、彼の身体は吸血鬼に変わっていくと言う事実を理解してしまったから。  だが、それでも良いのだと彼は自分を偽り納得させた。  他者の血を奪わなければ碌に起源能力を使用することができずとも、生きていく上では特に関係ないと。  しかし、青年は気付くのが遅すぎた。  この都市に入ったと言うことは、  否応無しに戦火の中に放り込まれ、  誰かの命を奪うことになると言うことに。  そんな基本を、今まで覚え続けていることができたのなら、少年は苦しむ必要など無かった。  人間としての生を捨て、本能のままに生き血を啜り、本物の化け物として自身を完成させていたのならば、青年は今までのような人生を送っていただろう。そこには苦痛は無かっただろう。
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