2 日常パラノイア

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 頭を左右に傾け首の骨をコキコキと鳴らし、彼は女性の手を掴んだまま窓に手を掛けてそのまま空に飛び出す。 「ちょっと、ばかぁ! 死んじゃう、あ、ダメ、私、死んだ」 「よく見ろ、お前は死んじゃいねぇし……って、気絶しやがったか」  彼は再び大きくため息を吐くと女性を背負って外を歩き始める。 (そもそもだ、当ても無く起源覚醒者が飛び降りなんかするかよ) 「それにしてもだ、思わぬ所で記録を更新したもんだ。19.16メートルか……」   どうして彼が一瞬のうちに、それも衝撃一つも無く六階から地上に立っていたのかといわれれば、距離を支配したからとしか言いようがない。  記録更新といっているあたりから、今までは試したことも無い距離だったということも見受けられる。 「さて、コイツはどうしたもんかな……ま、そのうち起きるか」   こうして彼、前ノ蔵眷属と名すら分からぬ女性の奇妙な関係は始まった。  もっとも、彼は厄介ごとが一つ増えたに過ぎないと考えているようにしか見えないのだが……… 「とりあえず疲れたし家帰って寝る。それしかねぇ」  最後にそう呟いて、彼はのそのそと女性を背負いながら道の真ん中を歩いて帰るのだった。
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