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それから数秒後、男は身体を小刻みに揺らしながら口を開いた。
「と、取引してくれ! 俺に答えられることなら何でも吐く、だから見逃してくれ!」
その言葉に緋雨は少し考えてから、何か思い当たったのか「言ってみろ」と瞬間移動使いの男に言う。
(それに、なずなの前で人を殺すところは見せたくないところだし……)
「か、感謝する。何を言えばいい?」
だが念には念を入れているのか、彼は傷つけるモノを成形したまま瞬間移動使いの男と会話をする。
「雇い主、周辺組織、その他有力情報の三つを知っているだけで良い」
「雇い主は―――へっ!?」
瞬間、言葉を発しようとした瞬間移動使いの男の眉間に風穴が開いた。
なずなは何が起こったのかわからずに彼の背中でカタカタと揺れている。
「な、見逃して…くれるんじゃ―――」
「なかったのか」と最後まで言い切ることなく、眉間に開いた風穴から脳脊髄液と血が混ざったようなぶよぶよした何かを垂らしながら瞬間移動使いの男は絶命した。
「緋雨…死んじゃったの…その人……」
「ヴィヴル……なずなの今見た記憶を消せ」
ヴィヴルはニヤリと微笑んでからこくりと頷いた。
「やっぱりそっちのほうが貴方らしいわ」
そして、なずなの額にヴィヴルは手を置く。
「記憶を…消す……? ダメ…イヤ、忘れたくないよ…緋雨だけに辛い思いさせたくない、やめて、お願い―――」
「だーめ。彼は貴方に暗いところ見せたくないみたいだからね」
そう言った瞬間、ヴィヴルの瞳が紅く光ったと彼の背中でなずなは気絶したかのように脱力した。
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