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ただ誰かに認められたいという想いの元に生きてきた青年が、ようやく気が付くことのできた新たな想い。
ゆったりとした動作で青年は輸血パックを胸ポケットから取り出すと、それを一気に飲み干す。
「僕は、この気持ちだけは裏切らない。偽るつもりは無い―――」
次の瞬間、青年―――水城(みずき)緋雨(ひさめ)は言いようの無い高揚感に包まれた。
全身を熱く煮えたぎったような血が駆け巡り、心臓がドクンと一つ大きくする。緋雨はこの状態になった血液のことを魔血(イビルブラッド)と呼ぶ。
文字と呼び名の通り、魔の血。
他者の血を摂取した場合に自然に発動し、使用者である緋雨の身体機能を全体的に上昇させ、人間をはるかに凌駕した身体能力を得ることができる。
つまり、ビルの屋上から飛び降りることくらい緋雨にとっては造作も無いこととなるのだ。
軽く地面を蹴りつけ、隣のビルに跳び、目的の建物に向かって一直線に夜空を駆ける。黒い閃光となった緋雨を常人の視力で捉えることができるはずも無く、三桁を超えるほどの警備員共は何の意味も無く突破された。
建物の中に進入をした緋雨は何の苦も無く『不死』の少女の居る部屋に辿り着けた。
部屋の前に立ち、名も知らない少女を助けに来た緋雨は思った。
(これじゃ、僕が悪役みたいだな……)
そして、扉を開けた彼を待っていたのは『不死』の少女と、素知らぬ表情で待ち構えるように立っていた男が一人。
「よう、オリジンブラッド。常々アンタとは戦ってみたいと思ってたんだよ」
オリジンブラッド。それは水城緋雨に付けられた通り名である。
「僕は出来る事なら戦いたくない……彼女を此方に渡せ」
「おいおい、つれないねぇ。俺はアンタの敵で、アンタは俺を倒さないと不死の少女を奪えない。だったら殺りあうしか無いだろ?」
「時間が無い……殺されても文句は言うなよ―――なにせ、僕は化け物だからね」
無表情のまま、冗談のような口調で言い終えた緋雨は、ベルトに付けているホルスターからナイフを取り出す。
「オリジンブラッド……俺を馬鹿にしているんじゃないだろうな?」
男の問いに、緋雨は答えることなく……
取り出したナイフで自分の掌を串刺しにした。
「勘違いするなよ起源覚醒者……これが僕の戦い方だ」
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