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流れ出る血液が地面に零れることなく、重力に逆らい刃を形成していく。酸素と結合したことにより真紅の血液はどす黒い赤となり、無骨な石の刃のような形状になった。
しかし、絶えず流れ続ける魔血によって形成された刃は一定間隔で鼓動を刻み、まるで生きているかのような錯覚を覚えさせる。
緋雨はこの魔血で生成した刃を『傷つけるモノ(ラクサーシャ)』と呼ぶ。
「臆したなら恥も外聞も無く逃げろ。これを見てもなお、僕と戦うと言うのなら容赦はしない」
怒気も覇気も何も無い、無表情で緋雨は男に告げる。
だが、男には逃げると言う概念が存在しなかった。目の前に存在する緋雨と戦う日を待ち望んでいた男にとって、緋雨の言葉は心を躍らせるだけであった。
ただ最強の称号を目指してきた男に、恐怖など存在しない。
在るものは戦闘に対する高揚感と、勝利をした時に得られる快感のみ。
「ハッ、容赦しないだぁ? 笑わせんなよ、オリジンブラッド。俺はお前に勝つためにここに居る。逃げるって言うのは死ぬことを言うんだよッ!」
だから男は緋雨に向かって自分の全てを見せるつもりであった。否、見せるはずだったのだ。
「なら……覚醒者千人を同時に相手取って倒せるくらいに強くなれ」
しかし、男に待ち受けていたものは絶望と苦痛であった。
「な…あ、嘘……だろ―――こんなはずじゃ………」
緋雨のラクサーシャによって腹部を突き刺された男は血液を流すことなく倒れ伏せた。
「……世界は『~じゃなかった』に溢れている。殺すつもりじゃなかった、傷つけるつもりじゃなかった、そんな言葉は嘘だ。全部わかっていてそれを言うんだ。逃げるための口実、僕はそれを自分で経験してきて知っているよ。そんなものは自分の甘さに過ぎないって」
だから――――
そう言って緋雨は言葉を紡ぐ。
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