挿話●

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 空に向かって手を伸ばすと、父さんと津久見が手を繋いで何処かに行こうとしている姿が浮かんだ。  今から僕が行こうとしている場所を想像すると、自然と笑いが込み上げてくる。  二人共、死んではないよな。うん。出ていっただけだ。出ていっただけ……。  仰向けに寝ている身体はもう動かす気にもなれない。  血って暖かかったんだっけ?  人間の体温が常に40度近くあるって事は、まあ暖かいでしょ? でもそれにしては手に当たっているこの液体はあまりにも冷たい気がする。  あれ。冷たいのは当たり前か。  体外に出て数秒、数分、それくらい経過してるんだから。  はは。もう体内時計も壊れて時間なんか刻んじゃいない。  上げてた手も疲れてきた。  さてと、僕の明日は天国か、地獄か。  悪いことなんてゴミのポイ捨てくらいしかしてないし、天国に行けるんじゃ……。あ、でも小学生ん時には純君のゲームソフト盗んだっけ。純君がどういう人だったかなんて思い出せないけど。それに学校で出た宿題も何度か答えを丸写ししたりしてたな。  今から謝ろう。ごめん。  僕は……。  ……走馬灯なんて見えないのな。  それだけ薄い人生だったって事か。  そう考えると、涙が出るな。  あはは……。  あは……。  ………………。
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