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車内は懐かしい匂いで満たされていた。
後ろでしゅっという音がし、ドアが閉まる気配がする。
また進み出す電車を感じながら奧の座席をめざしていく。
色褪せた路線図のビラが冷房に揺られてひらひらしている。ふと気になって近づいてみるも、汚れ霞んでいるせいで読みとれなかった。
―誰もいない車両。
隣の車両にも人の気配がみえない。個室の様な、妙な安心感が漂う。
立ち止まって、錆びた金具に覆われた朱色の座席に静かに腰をおろした。
「駅はあなた次第‥」
声にびくんと心臓が跳ね返った。
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