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「入って」
ビルの二階。建て付けの悪そうな灰色の鉄扉が開かれ、山吾は躊躇いつつも中へ足を踏み入れた。
「……スーツは、左手にあるクローゼットの中に沢山あるから。好きなの選んで着替えといて」
「あ、ああ……」
その服は外にあるごみ箱にね。と言い残して部屋の奥へ消えていった彼女を見送る山吾の表情は、驚愕に満ちていた。
陰欝で古めかしい外観とは対照的に、室内は大変綺麗でモダンな雰囲気を醸し出している。
恐らく彼女の趣味だろう。床には赤と白で構成されたタイルが敷き詰めてあり、棚という棚には様々な猫のぬいぐるみが置かれている。
彼はそんな見慣れない光景に衝撃を受けつつ、赤塗りのクローゼットの扉を開いた。
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