探偵赤猫―A detective redcat―

プロローグ

｢クソォ……！｣

脳裏に、ニコニコと屈託のない笑みを浮かべて契約書を差し出す友人の姿が浮かぶ。

なぜ、自分はあの笑顔に簡単に騙されてしまったんだろう。

なぜ、あの紙にハンコを押してしまったのだろう。

悔しくて、情けなくて思わず唇を噛み締めるが、全ては後の祭。何を叫ぼうが虚しく空に消えてゆくだけだ。

つい最近ボロアパートも追い出され、ホームレスとなった彼に残された道は二つ。

借金取りから逃げ続けて凌ぐか。

大人しく捕まって後ろの黒ずめ達に殺されるか。

当然、彼は前者を選んだ。