始まりの挨殺

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始まりの挨殺

 まあ、さわりというか簡単な自己紹介だ。登場人物はいたって少数。あ、現段階の話な。  あくまでも夢に出てきた憶測でしかないが、妙に説得力があるお話だ。  六月の終わり頃。梅雨明け直後の蒸し暑い昼前の廊下を一人歩いていると、目の前で女子二人が言い争いをしている。  俺はその二人を知っていた。知っていた、と言えば関係があるのかと思われるが、実際何の関係もない。名前を知っているくらいで、気にもとめないただの一般的な女子校生だと。  近づくと、妙にリアルな話をしていた。夢だと気づくのにはそれからたっぷり現実時間で五時間は要した。寝てたし、あくまでも夢だからな。  やれ生徒会長だの、やれ成績がどうだのこうだの。俺にはさっぱり興味はないし、関係を持つことさえ疎まれた。  さっさと通り過ぎて購買へ。パンを買いに行こうとしたら、突然肩をすごい力で握られた。痛みがないことに気づいたのも五時間。俺ってやつは……。  そして、今度は人間業とは到底考えられない力で後ろ向きに押し倒された。いや、正確には引き倒された。  廊下の床に頭をしこたまぶつけ、だんだん俺の視界も意識も歪んできた。頭上では何か叫んでいるが、何を言っているかさっぱりだ。  そこで俺の夢は終わった。時計を見ると、とっくに七時を過ぎていた。慌てて制服に着替え、カバンを掴んで飯も食わずに外へ飛び出す。  その頃には今朝見た夢のことなどどこかへ吹っ飛んでいた。所詮、夢は夢だ。人間誰しも、こんな体験がなければやっていけない。  何故俺がこんなに急いでいるか。今日は年に一回の生徒総会が開かれる。俺はそこで発言権を得ている。またとないチャンスだ。散々文句を言って生徒会長を黙らせてやる。 「ん、生徒会長……? ……まあいっか」  何か引っかかった。生徒会長という響きには。そういえば生徒会長が目立った活躍をしたこともなければ、そもそも顔を見たことがない。  この夢と、妙に感じる生徒会長に対しての違和感。これがまさか、あんな日々を引き起こそうとは……。  重ねて断言しよう。夢は夢のままに放っておかれることなんてない。  ……だが、これだけは夢のままであって欲しかった。
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