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火の海。そうとしか表すことができない。その海の中には、木で出来た村の人達の家が『沈んでいる』。僕の家の前で、それを呆然と眺めている。さっきまで、ほんの数時間前までは、村の人達の話し声や、子供達のはしゃぐ声も聞こえていたはずなのに。
なのに。なのに。
ハスター村は火の海と化していた。今が月の出ている時間だからか、火が一層赤く見える。僕が寝ている間に何が起こったのか。火事なのか。それとも山賊どもがやったのか。
どうしていったいなにがなんでっ!?
頭の中を、色んな言葉が溢れて、上手く考えることができない。いや、分かっているんだ。どうしてこうなったのかが。でも、頭が、それを、否定する!
今まで平和に過ごしてきた僕達の生活を、壊す音が、声が!
村の人達の悲鳴が!
汚れきった山賊どもの声が!
だけど、それを簡単に受け入れることはできずに、体はその光景を見ているだけだ。
ああ、なんてダメなやつなんだ。僕は。
それから少し経って、僕の体はようやく動いた。思い出したからだ。村がこんなことになっているなら、母は、父はいったいどこにいるのか。
最低だ、僕は!
いや、そんなこと言ってる暇なんてない。僕の部屋に戻ると、壁に立て掛けている両刃の剣――バスタードソードを手に取る。後は、同じく壁に立て掛けてある小さな片刃の斧を腰のベルト後ろ側に付け、肘から先の全てを覆うくらいの、グリップが真ん中にあるタイプの円盾を右腕で持つと今までで一番の速さで部屋を出た。
家からばっと、飛び出した。まだ火は消えていないのに僕の家が燃えなかったのは、僕の家が他の家と離れていたおかげだ。これは、このときだけは、おかげと呼ぶべきだろう。
走る。様々な状態の、燃えている家が視界に入るけれど、それに構っている余裕はない。こんなこと経験したことなんてないから、体が、固まって上手く走れない。少し経って、村の中心についた。
なんて惨い。
そうとしか言えなかった。村の人達はここに集められて、一気に燃やされていた。
残っているのは、人の形をした黒いモノの山。そして、村の人達をそれに変えた山賊どもが三人。
「あ、ああ、ぁ……」
声が、震える。僕の日常が崩れ落ちていく音がする。その声に気づいたのか、黒いモノの山を見てニヤニヤしていた山賊の内の一人が僕の方に向いた。
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