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「おい、まだ残っていたやつがいたぞ」
……え?
それは、つまり。
僕以外は、もう、黒いモノになってしまった、わけなの?
ぐるりと、僕の心に黒いモノが渦巻いた。そう、黒いモノと言っていい。あの黒いモノの山は無念の、怨念の、憎しみの、憎悪の塊だ。それが、僕の中でぐるぐるぐるぐる回っている。
大きな斧を持った山賊がだんだんこっちに近づいてくる。残りの二人も、嫌らしい目で僕を見ている。嫌だ、やめろ。やめてくれ!
あともう少しで僕を切れる距離まで近づいたときに、山賊が黒いモノを何の遠慮もなく踏みつける。いや、あれはもう価値がないとやつらは思っているんだ。
ぷつり。
「うわあああッ!」
体が考える前に動く。左足を一歩前に出して!
両手でバスタードソード水平に構え、突く!
突く! 突く! 突く! 突く!
山賊の腹は真っ赤に染まって、そこから腸が少しだけはみ出ている。ざまあみろ。俺は、僕は、ボクはやってやったぞ!
視界が弾けた。
「がッ!?」
黒いモノの山に。弾き飛ばされる。バスタードソードは手から離れて、どこかへ飛んでいった。なんで?
「餓鬼が」
背に嫌な感触を感じつつ、上を見ると二人の山賊が僕を見下ろしている。黒いモノを見る目と同じ目で。二人の手には、大きな斧と一般的な片刃の片手剣が握られている。それで、みんなを殺したのか。
なぜか、不思議と、それには嫌悪感がない。
「仲間を殺してくれちゃってよぉ、どうしてくれんだ、このくそ餓鬼が!!」
体が宙に浮く。髪が引っ張られてものすごく痛い。やつらの顔が、怒りに歪んで直視できない。そこで、気づいた。
あれ、なんだろう、この気持ち。
さっきまでとは違って、なんだかスッキリとしたような、そんな気持ち。心に、心地の良い風が吹いているような感じだ。
「やってしまいましょうぜ、こんな餓鬼」
僕を吊り上げてない方が、吊り上げてる方に言った。だけど、もう。
「ああ、そうだな」
全ての音が、遠退いているように感じる。今、僕の頭の中にあるのは、父が教えてくれた、魔法の言葉。
やつらに気づかれないように素早くペンダントを掴む。何をしたのか、僕の行動を不審に思ったやつらが気づいたときにはもう遅い。
「主に、勝利の栄光を」
ペンダントの先の、一般にクリスタルと呼ばれてる部分を、胸にある我が主の紋章に押し当てた。
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