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「さて、ガキが安全確認してくれたからな!俺は何の問題も無くこの道を通れる訳だ!」
アキが来た道を振り返ると、乱暴な男が右に曲がる道の手前にいて、コンクリートにこびりついているものとその男以外に誰もいなかった。
疑問符がアキの頭に現れる。他の人はどこへ行ったのか、あの行き止まりのコンクリート壁にいるのか、アキには分からなかった。
驚くくらい冷静に、ゆっくりと、アキは立ち上がった。その様は、まるで最初からドラゴンなんていなかったかの様で、それだけアキの心に安心感が満ちている事を表していた。
「うあああああああああっっっ?!!!」
「?!」
突然の悲鳴に、アキは声のした方を振り返る。情けない悲鳴を上げた声の主は、アキに一々突っ掛かって来ていた乱暴な男だった。
しかし、今その男の目は驚愕に見開かれ、右に曲がる道の先を唯ひたすらに凝視している。男の時間はそこで止まっていた。
アキは瞬きをした直後、自分の体に何かの飛沫が降り注いだ事に気が付いた。その正体を突き止める為に目を開け、何かと目が合う。
「あ…、あああ…っ!!っうわああああああぁぁぁっっっ!!!!」
驚愕に目を見開いた男の首が、アキを空ろに見上げていた。
いや、正確にはアキを見上げていた訳ではないのかも知れない。しかし、余りの衝撃にアキは正常な判断力を失っていた様だった。
前も後ろも右も左も無く、ここから一刻も早く離れたいという一心で、闇雲に、道の続く限りアキは走り続けた。
そして、どれだけの時間を走る事に費やしたのか、アキはよく分からない建物の中にいた。
「はあっ…!はあっ…!…っは…!あっ…!げほっ!ごほっ!」
薄暗く頼りになる明りも無く、疲労し切ったアキに唯一分かった事は、ひとまずここは安全であるという事だった。
アキは建物の中を手探りで動き回り、水道と思しきものを見付け、水をがぶがぶと浴びる様に飲む。
「…っぷあはっ!げほ!げほ!」
そこまでして、アキはようやく平静を取り戻した。
「…ここ、どこだろ…」
何分、明りが無いにも関わらず適当に動き回ったのが、現在の状況把握を困難にしていた。
「…取り敢えず、明りのある所まで移動しよう…」
アキは来た道を戻る様に、再び手探り移動を始めた。
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